ウェアラブルの夢の未来と、その条件

グーグルグラススナップチャットのメガネ型カメラ「スペクタクル」のかなり劇的な失敗は、ウェアラブルテクノロジーが直面する無数の問題を明らかにしてくれた。テクノロジーとしてはさほど高度でもないアクティビティ・トラッカーや、本来用途が別なスマートウォッチを除くと、一般の人が使うような消費者向けウェアラブル製品はいまだに存在しない。ウェアラブル技術とヒューマン技術の融合というアイデアに大興奮するマーケティング担当者は多いけれど、ジーンズのような定番になるようなデバイスはまだ生まれていないのだ。

とはいえ、そのような夢のある製品に魅力があることは充分に理解できるし、世界中で活発な開発が続くだろう。例えば、7月に「トミージーンズ Xplore」という「スマート衣服」の新シリーズ商品を発表したトミー・ヒルフィガー。歩数を計ったり心拍数を記録したりする代わりに、この「賢い衣服」には、持ち主が頻繁に身に着けたくなるように仕向ける仕組みが組み込まれている。Bluetooth の「スマートチップ」が埋め込まれたアイテムで、着用者はゲームを行いポイントを集めることができる。着用すればするほど、ポイントが集まるのだ。そして集めたポイントは、割引や特典、ライブやファッションショーのチケットといったギフトと交換できる。

洋服はもちろんウェアラブルの究極の形ではある。ただ、それに「スマート技術」を追加するというのは、ちょっとどうなんだろう。トミージーンズXplore はバカにされたりしているし、似たような商品に首を傾げる消費者も多いようだ。他にはJacquardというGoogleとリーバイス共同開発のスマート・ジージャンがあるし、アンダーアーマーの出している Sonic Connected というランニングシューズは、ジョギングに関する数値を収集してくれる。

ヒルフィガーの「トラッカーが搭載された衣服」はパッと見ただけだと Fitbit のようなウェアラブルとは違うものの、実質的には目指すところは非常に近い。それはつまり、貴重なデータを収集しつつ、人に一定の行動を促すこと。だからといってどちらの製品も、人々が期待するようにはテクノロジーの力で問題を解決してくれる訳ではない。まだまだ、「どうせPR目的」と思われてもおかしくはないシロモノだ。その上、こういったセンサーは高くつく。トミー・ヒルフィガーのXploreラインは30〜140ドル程度だし、Fitbitの活動計は1万円以上もする。

バックパック1つでふわり

ウェアラブル市場は2019年までに250億ドルに達すると推定される。スマートウォッチやウェアラブル・カメラだけでなく、健康とフィットネスの定量化を超えた広範囲にわたるウェアラブル製品が新しく生まれると見込まれているからだ。

東京大学の学生が開発中のホバー・バックパックをご存知だろうか?Lunativity という名のこの製品は、まだ生まれたてで、一般の人の「ウェアラブル」の概念を超えるものだ。この商品が完成して市場に出回った時には、月面にいるかのようにふわりと宙に浮くことを可能にし、歩行者の安全をアシストしてくれるだろう。 普通のジャンプを効果的に現実拡張し、ちょっとした飛行状態に変えてくれる。こんなバックパックが簡単に手に入るようになれば、人間が世界を動き回る方法が、完全に変わるかもしれない。

未来の世界では、新しいウェアラブルが日常的な問題を解決してくれる可能性がある。例えば、夏には涼しくなるようなデバイスを着ウェアラブルな全方位カメラを使って冒険や休暇の完璧な動画を撮影する。ノイズキャンセリングイヤホンをつけて寝れば、眠れない夜などなくなるかもしれない。

実用的な「アイデア」であれば、実はどんどん出てきている。ただ実際のデバイスの実用性が不十分で、広く一般コンシューマーの利用までは至らないのだ。昨年の調べによれば、アメリカの消費者のうち75%はスマート衣服どころかウェアラブルデバイスも買ったことがないという。日本ではさらに、知名度すらスマホ所有者の半数に満たない。テクノロジーを身に着けることに抵抗感を持つ消費者が減るには、デバイスが進化して真に実用的に進化しなければならないし、そうでないと予想通りの市場拡大は実現しないだろう。

ウェアラブルの一番わかりやすいメリットとしては、日常のルーチン的作業への応用が考えられる。ウェアラブルの利用によって我々がわざわざ手を使わなくてもよくなると、例えばもっと速く移動したり、周囲の環境を判断したり、家庭と職場の両方で効率的に行動できる。結果として、より多くの時間が手に入り、もっと働いたり遊んだり、集中したり、楽しいことをする時間が増えるはずだ。

データプライバシーはデフォルトで

だからといって、そんな便利なウェアラブルでも使用をためらう理由もなくはない。と言うのも、より多くのテクノロジーを身に付ければ、よりインターネットに「つながった」状態にいることが増えるが、それには、メリットとデメリットがあるからだ。接続された状態は便利だが、監視の恐れが絶えずつきまとい、少なくとも個人のプライバシーを一部は放棄することが必要となる。そもそも、着たり持ち運んだりするテクノロジーは、所持者の今いる場所・行った場所・見たもの、そしてその他身体的・感情的な様々な情報を認識し、把握してしまうものだからだ。

自らの行動データが何に利用されているか不明瞭だと、人々にゾッとする行動変化をもたらし得る。つまりユーザーは「監視」されていることを恐れるあまりに、本来は自由な自らの行動を抑制してしまったりするのだ。だから消費者は、ウェアラブル・デバイスがどのようなデータを、なぜ収集しているのか、より詳しく理解することがとても重要になる。そしてデータ利用に関する透明性を高めることができれば、悪用に関して一定レベルの牽制作用とコントロールをもたらすことが期待できる。また、AI を悪用したデータ・ハッキングの危険を考慮すれば、一般消費者はデータのセキュリティに関しても保証を求めるべきだろう。

ウェアラブル製品を開発するプロダクトチームが潜在的消費者を教育する時間をきちんととり、利点や利便性など良い面のみでなく、データ収集やトラッキングのような注意すべき面も合わせて周知する。こんなことを多くの企業が当たり前に出来るのであれば、スマートデニム他のウェアラブル だって普通のジーンズと同じくらい信頼し、安心して身に着けられるような日が来るのかもしれない。

Trying on wearables by Fiona McEvoy 抄訳