すべての言葉は、やがて透明になる

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いまは奇妙に思えても、時間とともに受け入れられるものがあります。

All Turtlesの新しいトップページに英語、フランス語、日本語の三カ国語の記事が並んでいるデザインも、今の常識でみるなら奇異に映るかもしれません。しかしはたして、これからもずっとそうだと言い切れるでしょうか?

Google翻訳がそれまで使用していた統計的機械翻訳に替わってニューラル機械翻訳(NMT)を使用し始めたのは2016年の11月のことです。昨年にはChromeブラウザ内での翻訳機能が増強され、つい先日はスマートフォン版のアプリがオフライン翻訳に対応するなど、この分野は目覚ましい発展を遂げています。

目に見えない進歩も着実にやってきています。2016年に、テストのために著名な小説家の文章を入力して翻訳の精度を試した方も多いと思いますが、それから継続して同じ文章をいれている人は、細かいニュアンスの向上に気づいたことでしょう。

試しに All Turtles サイト上の記事、”L’éthique n’est pas la solution miracle aux biais de l’IA”をご覧になってみてください。

Google翻訳機能をブラウザに入れている人ならば、”la solution miracle” 「奇跡的な解決方法」が、表題にふさわしく「魔法の弾丸」と訳されていることに気づくはずです。ここまで翻訳のニュアンスは高度化しているのです。

翻訳の精度が問題でなくなれば、それを実社会のなかで展開するための足場が出来上がったことを意味します。サイトの多カ国語運用などは、まさに筆頭にやってくる適用方法といっていいでしょう。

いまは「英語サイト」「日本語サイト」を個別に用意することが常識的なサイトも、機械翻訳が自然になれば、コンテンツをアドホックに翻訳して表示することで、元言語が何であるかさえ私達が意識する必要さえなくなるはずです。

おそらく、まだ機械翻訳は特に短い文章における雰囲気や文章の真意を正確に伝えることができませんので、短期的には「これは皮肉な文章」「これは悲しみをもって書かれた文章」といったコンテキストをアルゴリズムに伝えると言った工夫は必要でしょう。ツイッターで、皮肉なツイートが誤解されることを避けるために人々が「#皮肉」というハッシュタグをつけるといったようにです。しかしこれも過渡的で、やがては不要になる手続きとなるでしょう。

サイト上記事が元々どの言葉で書かれていたのかなど、それこそ記事がどのフォントで表示されているか程度の、本質的ではない問題になるのです。

すべての言語は透明になる?

翻訳の機能が進化するにつれて、それぞれの国の人が他国のコンテンツをより直接的に消費する例も増えてきています。

たとえばツイッターやFacebookの翻訳機能が進化するにつれ、外国のツイートが瞬時に翻訳されて異なる国で爆発的にシェアされるケースも最近では日常的にみるようになりました。これはコンテンツの流通の上でも革命的ですが、同時に言葉が障壁となって守られていたコンテキストが崩壊するということでもあります。言葉の違いは、もはや透明になりつつあるのです。

ではなにもかもが翻訳可能で、すべてにおいて等質に扱えるかというと、そういうわけでもありません。ビジネス文書や日常会話ならばそれも可能かもしれませんが、小説の言葉、詩の言葉といったように、解釈に向けて開かれている言葉のもつ価値は、それが翻訳不能だからこそ増しているとも言えるのです。

All TurtlesCEOフィルのこの言葉は、それを良く表現していると思います。あえて、翻訳せずに引用しましょう。

As we get bigger, we’ll get better at translating our content into multiple languages, but there probably always will be something that not everyone can understand. We like it this way. The world is big and diverse, and it’s useful to remind our brains that we don’t grok all of it.

すべてが瞬時に翻訳される世界では、言葉のもつ意味はどのように変わるのでしょうか?人々は、言語や文化の差異をどの場面で意識するようになるのでしょうか?

AIによって情報の可搬性が新たなステージを迎える時代だからこそ、翻訳不能なものをどのように守るのか、どのように伝えてゆくのかを考えることも、人類の課題としてその姿を現しつつあるといってもいいでしょう。

All Turtlesのトップページが奇異にみえるのも、あと少しのあいだなのかもしれません。